「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)」と「軽度知的障害」の娘は、グループホームに入居して、就労継続支援B型事業所で一般就労を目指して訓練を積んでいました。
グループホームでは1棟の建物に5人の利用者が共同生活を営んでいます。
さまざまな年齢の、それぞれに障害を抱えている人間が5人集まって一緒に住むとなると、うまく折り合いがつかない場合があり、常にストレスを抱えることが起きてしまいます。
娘はグループホームに入居してから、月に1、2回は連休を利用して自宅に帰ってきていました。
だいたい三連休を利用して帰るのですが、帰宅するときは笑顔で帰ってきても、帰宅初日は必ずといっていいほど、夕方から夜にかけて急に機嫌が悪くなります。
原因は取るに足りないほんの些細なことで、それをきっかけにどんどん気持ちがマイナスの方向に向かって行って、事業所やグループホームでの生活の愚痴が次々と出てきてなかなか止まらずに、情緒が不安定になります。
不登校から昼夜逆転になり、それを改善するためにグループホームに入居したのですが、不眠症や昼夜逆転の生活が改善されたら今度は別の問題が起こりました。
自宅を離れて、規制が多い生活を送っているので、不満が起こるのは無理のないことだとは思います。
グループホームには福祉施設の主がいた
グループホームでは5人の女性が共同生活を送っていますが、利用している福祉施設がたまたまそういう環境だったのか、若い人や女性がとても少ないのです。
一番年長の人が40代後半で、他の人も40代から30代の人ばかりで、特別支援学校を卒業して18歳で入居した娘は、小さくなって周囲の言いなりになっていたようでした。
グループホームでリーダー的存在である二人は、もう何年もグループホームに住んでいて、グループホームに入居する前は同じ福祉施設の障害者支援施設でずっと生活していました。
二人とも両親も共に障害者で、両親は障害者支援施設に入居しているので、ずっと施設で育って施設が自宅みたいなものでした。
その中の一人は両親と姉妹4人、家族6人で障害者支援施設やグループホームに入居していました。
なので、グループホームでは主みたいな存在です。
さらに、二人ともグループホームから就労継続支援A型に通えていることから障害自体は軽いようなので、人に指示をする力も持っていたりするので、ますますホームでの権威が強くなっていました。
グループホームで起きる困ったこと
グループホームで具体的起きたに困った出来事は
- 個室に勝手に入ってきて、自由時間を邪魔される。
- 個室で自由時間に見るテレビ番組を強要される。
- 日曜日にみんなで生活必需品を買いに出かけますが、その時に買う持ち物を全員お揃いにするよう強要される。
- 新しい服を買う時に自分の趣味ではない服を買わされる。
という事があったようです。
見たくないものは見たくない、欲しくないものは欲しくない、やりたくないことはやらない。
「そういったときははっきりと自分の気持ちを伝えて、言いなりにならなくてもいいんだよ」
と言っても、娘も私と同じで命令されたり、頼まれたりしたら断われない性格です。
従った後に、自宅に帰って怒りが爆発して家族に八つ当たりしていました。
帰る自宅があって、八つ当たりできる家族がいるのはまだ幸せなことだと思います。
グループホームの他の4人は帰る家がなく、ずっとホームで生活している人ばかりで、月に1,2回の連休やお正月休みに楽しそうに自宅に帰る娘がうらやましかったのもあるのでしょう。
自宅でゆっくりしているときに、スマホへの着信もなかなかのすさまじい量で、うるさいので電源をしばらく切っていたら、何十件も通知が入っていたりしました。
このスマホ問題は中学生の時の特殊支援学級の時も、特別支援学校の高等部の時も、今回のグループホームでも常に頭を悩ます問題でした。
知的障害がある人には、自分の欲求をセーブできない人が多くいます。
「スマホでメールがしたい」と思ったら、相手の都合や時間への配慮が出来なくて、迷惑メール状態になってしまうことがあります。
着信履歴を見ると、数分おきに数十回の着信があったりして、連続で着信されているときにスマホを利用できなくなることがよく起きたりします。
どうしても連絡を取りたい人だけに番号やアドレスを教えて、後はうまく断るように話しても、やはり「断れない性格」のせいで聞かれたら教えているようでした。
障害の状態よりもその人の持つ人間性が大事
娘は障害自体はあまり重くなく、身の回りのことは自分でできますし、家事などのお手伝いもしっかりしてくれます。
困っているのは主に、障害を持っていることで周りとうまく関われなくて、そのために悩んだり自分を責めたりして、精神的な病に罹ってしまう二次障害の方です。
そうなってくると、周りの利用者と話が合わないという問題が起きてきます。
リーダー的存在の二人は会話の内容が幼いので、共感ができなくて会話に参加することもなく、ニコニコしてうなずいて聞いているだけだったようです。
逆に、言葉が上手く出てこなくて会話があまりできないMさんは、いつも穏やかで一緒にいると癒されるので、自分のことが出来ないことが多いMさんの、身の回りのお手伝いをしたりして一緒に行動していたようでした。
障害があるから、ないから。
障害が重いから、軽いから。
出来ることが多いから、出来ないことが多いから。
あまりそういった問題は、人とお付き合いする上で関係ないようでした。
自分と波長が合う人との安心できるお付き合いが大切なようです。
これは障害者だからというわけではなく、健常者でも同じだと思います。
お互いに相手のことをどこまで考えてあげられるか、が大切だと思うのです。
障害があってもちゃんと考えられる人もいれば、健常者でも自分のことしか考えられない人もいます。
Mさんは、自分の管理ができないことがあったり、作業も少し難しい作業になると参加できないこともあります。
それよりもMさんのおっとりとして、穏やかな性格や優しさが魅力的で、Mさんにくっついていたようでした。
グループホームでは世話人さんの存在が大きい
それでも時には建設的な会話がしたいこともあります。
そういったときは世話人さんと会話をしてストレスを解消していたようです。
食事を作ってくれたり、身の回りのお世話をしてくれる世話人さんが毎日ホームに通ってきてくれます。
朝は、7時の朝食に間に合うように出勤してきて、昼間はみんなが作業に出かける間に一旦帰宅したり買い物を済ませたりして、夕食の支度に間にあうように帰ってきます。
夕食が済んで後片づけが終わると帰宅しますが、世話人さんの仕事は食事を作ったりのお世話をしてくれるだけではなく、悩みを聞いたり生活面でのアドバイスもしてくれます。
掃除の仕方や洗濯物をきれいに干す方法を教えてもらったり、部屋のスペースを有効に使えるように、便利グッズを買ってきて押し入れの整理の仕方を教えてくれたのも世話人さんです。
毎日近くで過ごしているために、利用者の体調の変化にも気づきやすいので、体調管理も任されています。
利用者同士の関係が悪くならないように常に気を配っていて、他の人の迷惑になるような行為が見られたら注意をしたりして、お母さん的存在になります。
グループホームでの不満は世話人さんに相談していました。
たくさん不満を抱えながらも、穏やかに過ごしていたのは、世話人さんの存在があったからだと思います。
グループホームを出たいとしきりに訴えていた
不登校から始まった昼夜逆転もすっかりと改善され、朝早くから起きて作業に参加して、夜も早く眠れるようになると、グループホームを出てもいいのではと思えてきました。
娘も「早くグループホームを出て自宅に帰りたい」としきりに訴えていました。
しかし、B型事業所は自宅からとうてい通える距離ではなかったので、グループホームを出るということは、他の事業所に移るか、一般就労するしかありません。
私も、サービス管理責任者もちょっとしたことがきっかけで、また引きこもりに帰ったりしないように慎重になっていました。
「障害が軽くて出来ることが多いからいいよね」
とよく言われたりしますが、決して軽くても悩みが少ないわけではありません。
一見普通の人と変わらないようにみえますし、健常者の中でも十分やっていけると思ったので、中学校でも普通学級に在籍していました。
しかし、少し言動が幼かったり、周囲にうまく合わせられなくて差別を受けてしまいます。
だったら障害者の中だとうまくやっていけるのか。
と思ったら、そちらでも居場所がないのです。
障害が軽い場合や、ボーダーと言われている人は、健常者の中にも入れない、障害者の中にも入れない辛い立場になります。
そのため、新しい環境に移るのに慎重になってしまいます。
グループホームでの生活は不満だらけでしたが、なかなか就職ができないし、自宅の近くにある事業所にも簡単には変えることができなかったので、世話人さんに愚痴をこぼしたり、自宅に帰省した時にうっぷんを晴らしたりしながら、しばらくは我慢してそこで過ごすしかない状態が続いたのでした。