「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)」と「軽度知的障害」の長女は、就労移行支援事業所で就労のための訓練を受けていますが、一緒に訓練を受けている男性につきまとわれるストレスで、訓練に行けなくなってしまいました。
事業所の職員や相談支援専門員のアドバイスで再び訓練を再開しましたが、抱えていたストレスはそれだけではなかったのです。
妹が彼氏を家に連れてくることにイライラして気持ちが乱れてしまうのも原因でした。
妹がうるさくてイライラする
三歳年下の妹、次女は専門学校に通いながら学費を稼ぐために、学校が終わってからと休日にアルバイトをしています。
奨学金ももらえるのですが、就職してからの返済額をなるべく少なくするために、空いている時間はほとんどアルバイトで埋めていて、自宅でゆっくりできるのは夜遅い時間だけになっています。
それに対して長女は、早起きして電車やバスを乗り継いで事業所に通うため、早い時間に寝てしまうので生活スタイルが大きくずれてしまいます。
そんななかで、次女がアルバイト先で出会った彼氏を連れて帰ってくるようになりました。
彼氏も同じ苦学生なので、アルバイトが終わってから学校に行くまでのほんの少しの間しか二人でゆっくりできる時間がないし、アルバイトで稼いだお金もほとんどが学費に消えていってしまうので、経済的にも時間も含めて外で会う余裕がないのです。
時間とお金の節約のために、アルバイトが終わったら二人で一緒に帰って来るようになりました。
帰って来るのが夜中の11時から12時なるので「静かに帰って来てね」とお願いしていたので、そっと物音を立てないように帰ってきてはいるのですが、音に対して敏感な長女は少しの物音にも反応して、気になりだしたら眠れなくなるのです。
かすかにでも話声や笑い声が聞こえたりでもしたら、真夜中に怒りマックスになるようでますます眠れなくなるようでした。
一緒にいる私は全く気にならないくらいの音なので、本当は物音が気になって眠れないのではなく、妹が立てる音が気になってしょうがないのでは?と思われます。
それで睡眠不足が続いて、事業所でも嫌なことが起きるのでイライラが積もって、気持ちがいっぱいいっぱいになってしまって訓練に行けなくなってしまったのです。
どっちの味方をすればいい?どっちの味方もできない!
いつも友達にに囲まれていて、彼氏と仲良くしている妹がうらやましくて腹立たしいのではと感じました。
長女にも大切な友達はいますが、次女のようにたくさんの友だちに囲まれていてにぎやかに過ごすわけでもなく、ましては彼氏ができるような状態でもなくて、二次元の男の人には興味がないと言いながらも、彼氏とデートしたり一緒に過ごしたりするのに憧れる気持ちがきっとあるのだと思うのです。
だから妹が彼氏と帰って来る音は、どんな小さな音でも癇に触ってしまうのだと思われます。
いくら「気にしないで」と言っても気になるのは仕方がないのかもしれません。
だからと言って、次女に「彼氏を夜遅くに家に連れてこないで」とは言えないのです。
高校を卒業するときに
「とてもうちの家計の状況では進学させてあげられない」と言ったら
「どうしても進学はしたいから、奨学金を借りてアルバイトもして自力で学校に行くから、一切お金は出さなくていいから自分でなんとかするから」と言われました。
両親がそろっている家ならそんな苦労はしないで、何一つ心配せずに希望の進学先に行って、友達と楽しく学生生活を送り、アルバイトをしても自分のおこづかいにして、遊びにいったり好きな事に使ったりするのでしょう。
何一つ文句も言わずに疲れていても、学校から帰って来てから小一時間ほど休憩したらアルバイトに向かって、帰って来るのは夜中です。
それから晩ご飯やお風呂をすませて寝るのが遅くなっても、また朝になると学校に向かいます。
休日も遊びに行くこともなく丸一日アルバイトに明け暮れているので、わずかな時間に好きな人と一緒に過ごしたいという気持ちを認めてあげないと、これ以上頑張るのは無理なような気がするのです。
どっちの気持ちもわかるし、どっちの言い分も間違っていないような気がするので、困ったことにどっちの味方もできないのです。
障害を持つ姉がいるということ
二人が生まれて育ったのは離島の田舎ですが、離島の中でも更に田舎の周囲には住む人が少ない限界集落で、一緒に遊ぶような小さな子供が全くいないところでした。
そのために小さなころから二人っきりで遊ぶことが多くて、常に活発な妹がリーダーシップを取って遊んだりしていました。
周りに関わる人がいなければ、姉に成長の遅れがあることを気にすることもなかったようです。
姉が他の人と少し違っていると気が付いたのは、次女が小学校に入学してからだと思われます。
長女は、自分に起きていることや周りの様子など、学校での出来事をうまく言葉で表現できなかったので、学校での様子は担任の先生から聞いたり、私が学校へ行ったときに見た感じでしか分からないでいました。
次女が小学校に入学してしばらくしてから
「おかあさん、おねえちゃんって学校でいじめられてるの知ってるの?」
と言ってきて驚いたのでした。
長女が学校から帰って来ると、自室のベットの中に潜り込んで泣いていることがありましたが、理由を聞いても「よくわからない」と言ってなぜ泣いているのか分からずに、担任の先生に聞いても心当たりがないと言われたりしました。
次女が小学校に上がることで、次女の目を通して長女の様子を聞けるようになり、学校での事情がだんだんと分かってきました。
姉がいじめられたり、仲間外れにされたりと分かっていても、三つも年下なら何も言えずに見ていることしかできないので、いらだたしかったと思います。
そうかというと、今度は
「おかあさん、お姉ちゃんが学校で恥ずかしい」
と言うことがあり詳しく聞いてみると、長女が友達が嫌がっているにも関わらず、自分に興味があることだけを話して、同じこと何度も繰り返して話すので、友達に嫌がられているというのです。
女の子が嫌がって相手をしなくなると、今度は男の子の中に入っていって、執拗に男の子たちを追いかけまわすのが恥ずかしいと言うのです。
生徒が少ない学校なので、学年が違っても生徒全員の様子を把握できます。
次女は学校の中で異質になっている姉の存在を持て余しているようでした。
障害を持つ姉と妹の関係
長女の担任の先生から「発達障害かもしれないですよ」と指摘があって、発達障害者支援センターに相談に行ったのですが、その時は診断が出ませんでした。
しかし担任の先生と、幼稚園のころからずっと通っている言葉の教室の担当者と話し合って「診断は出なくても発達障害の可能性はあるので、それなりの対応をしていきましょう」となりました。
次女にも発達障害とはどういった障害なのか、どうしてお姉ちゃんが人と違った行動を取るのか分かるように説明して、お姉ちゃんを理解して助けて欲しいとお願いしたことがあります。
その時は「わかった」と言って理解してもらったのですが、毎日一緒に過ごしていると、分かっていても抑えきれなくなることがあります。
長女が細かいことにこだわってうるさく騒いだり、子供じみた発言をした時はうまく受け流して欲しいのですが、次女は正論で突っ込んでみたり小ばかにした態度を取ったりするので、プライドの高い長女がますます腹を立てて収集がつかなくなって妹を殴ってしまうこともよくありました。
「そういった障害なんだから分かってあげないと。家族が理解しなくて他に誰が理解できるの?!」
と注意した時に
「分かっているけど我慢ができなかった。普通のお姉ちゃんがよかった・・・」
と言われて「ドキッ」としたことがあります。
私にも兄弟がいて、子供の頃は学校のことテレビや芸能人のこと友だちのこと、いろんな話題を楽しく共有しまていました。
たった二人の姉妹、姉に障害がなかったら一緒に学校のこと、テレビの話題などを楽しく話し合ったり、おしゃれのことをお姉ちゃんに教わったりするのでしょう。
姉妹二人で出かけることもありますが、引っ張って行くのは次女の方で、感覚が過敏で人混みが苦手な長女に気を使いながら行動していることだと思います。
家族三人で出かけても、何か癇に障ることがあると自分の世界に入ってしまい、周囲の目を気にせずにわめいたりするので、せっかく出掛けても空気がマズくなり帰りたくなったことが何度もあります。
普通の人と理解し合えなくてはじかれてしまう長女本人も大変だと思いますが、次女は次女で小さい時からたくさん我慢をしてきたのだろうと思われます。
そうかと思えば、次女が機嫌を損ねた長女をなだめるのが一番うまかったりするので、姉妹の関係は不思議だったりします。
中学生になったばかりの頃次女が
「お姉ちゃんはお姉ちゃんなのに全然お姉ちゃんらしくない、私が先に産まれればよかったのに」
としきりに言っては怒りをぶつけてくることがありました。
それだけはいくら言ってもどうすることができなくてなだめるしかありません。
とうとう怒りを抑えきれなくなった次女が
「もうお姉ちゃんのことはお姉ちゃんと呼びたくない!今日から名前で呼んでいい?」
と言ってきました。
姉妹の呼び方は特に強制したことはありません。
ただ便宜上先に産まれた方を一般的な呼び方で「お姉ちゃん」と呼んでいるだけで、それぞれが好きなように呼びやすい呼び方で呼んでいいと思います。
でも、今まで「お姉ちゃん」と呼んでいたのに急に名前で呼ぶようになる、それも理由がお姉ちゃんが頼りなくてお姉ちゃんと呼びたくないからだとなると、長女がどういった気持ちになるのか考えたら簡単には賛成できません。
「理由は言わないでお姉ちゃんに呼び方を変えていいか聞いてみたら?」
と言ったら、長女は「別になんでもいいよ」ということだったので、次女はそれからお姉ちゃんを名前で呼ぶようになりました。
次女なりの反抗だったのかもしれません。
それからは産まれた順番のことは気にしないようになりました。
呼び方を変えたことで気が済んだのかもしれないです。
どっちの味方もできなければどうするのか
話を元に戻して、学校やバイトで忙しくてわずかな時間に彼氏と一緒にいたい次女と、次女が彼氏を家に連れてくるのが気に入らない長女の問題をどうするのか?
長女にどうして嫌なのか聞いてみました。
そうしたら、知らない男の人の気配が気持ち悪くて、知らない男の人が同じ屋根の下にいることが嫌なのだそうです。
長女にしたら知らない男の人ですが、私はすでに面識があって、知らない男の子ではありません。
私が困った時、不眠症でフラフラな時に病院への送り迎えをしてもらったり、夜中に喘息の発作が出た時も病院に連れて行ってもらっています。
母親が精神科に通っていて精神福祉手帳を所有していて、長女は発達障害と軽度知的障害で療育手帳を持っている家庭と聞いただけで敬遠する人も多いのではと思われます。
実際に、次女が以前お付き合いがあった人の母親に
「あそこの家庭はちょっと複雑だからお付き合いして欲しくないわ」
と言われたことがあります。
長女にそういった話をして
「優しくて偏見のない親切な人だよ」
と話していると、長女も徐々にどんな人なのか興味を持つようになりました。
長女はずっとアニメーションが大好きでいわゆる「アニメオタク」ですが、次女の彼氏は「こんなアニメが好きなんだって」という話をしたら、会って話をしてみたいと思うようになってきたようでした。
ある日、その機会がやってきました。
私が夜出かける用が出来て、次女もその日はめずらしくバイトが休みだというので、長女と二人で食べる夕食の支度をお願いしました。
そしたら、彼氏もその日はバイトが休みというので
「だったら三人で夕食を食べたらいいのに」
となり、私はお出かけで、長女と次女と次女の彼氏と三人で夕食を食べることになりました。
翌日、長女がうれしそうに
「三人で晩ご飯食べて、アニメの話もたくさんしたよ。○○くん(彼氏の名前)はこんなアニメが好きなんだって」
と夕食の様子を聞かせてくれました。
それからは、次女が夜中に彼氏と帰って来ても文句を言わなくなり、気にしないでぐっすりと眠れるようになりました。
とにかく話してみるとお互いに理解しあえる場合もある
たまたま上手く行った我が家の例ですが、障害者の長女でも健常者の次女でも、なんでもとにかく話してみると歩み寄れたり、解決の糸口が見つかることがあります。
「ああしてくれないかな」とただ思っているだけでは何も伝わらないし、なかなか解決にまでたどり着くのが難しくなってしまいます。
お互いの立場や環境、気持ちや想いが違っても相手の立場に立ってみて、理解しようと努めてとにかくたくさん話し合うことで、気持ちもほぐれていくのかなと思ったりしました。